エッセイ 『日常』

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  久しぶりに寝付かれぬ夜を明かし、以前より約束のランチに出かけた。こんな日にランチ?いや、こんな日だからこそランチ、と思い直して、日差し照りつける街を歩いた。
 
 実は、こういうことがあって・・・

 会うなり、話を切り出す私に、気の置けない長年の友は、多くを聞かずとも、分かっているという風に、静かにアイスカフェオレのグラスをかき混ぜた。

 都心は、照りつける夏の日差しがまぶしく、真昼のアスファルトを熱風が吹き抜けていった。目を射る光に眉を寄せながら、私は屹立するガラスのビル街を見上げた。
 昨日と何一つ変わらぬ日常が、ここにある。人一人がこの世に別れを告げた翌日も、街の景色は変わることなく、無数の人が駅を行き交い、高架を揺らして電車が走り去っていった。
 ふと涙がこみあげてきた。悲しいとか、つらいとか、そのような明確な感情の形をもたぬままに、涙だけが勝手に溢れ出そうとしていた。
 
 センチメンタリズムに沈むな!
 
 私は自分を叱咤すると、大きく深呼吸をして、溢れ出そうとしているものを飲み込んだ。
 私の涙など何になる。私は今日も生きていて、彼女は、もう生きていない。
 そういう現実の前に、私がこぼす涙が、一体どれほどの意味をもつというのか。
 落ち着きどころのない想いが、ぐるぐると渦を巻き、心が波だっていた。
 時間がたつほどに、現実が心に食い込んでくるようだった。人を見送る儀式の諸連絡に、ああ、これは紛れもない現実なのだ、とあらためて思わざるをえなかったからだ。

 この夏の楽しみとして書くつもりでいた、このブログ。
 だが、単なる楽しみではなく、自分自身の心の整理のために、そして、彼女の鎮魂のために、書いていこうと思う。

 
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by law_school2006 | 2006-08-14 17:34
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