エッセイ『黄昏』

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  LSの期末試験がようやく終わった。
 もっとも学校の期末試験が終わったとしても、目標は単位をとることにあるのではなく、来年の試験に合格することにあるのだから、そうそう喜んでもいられない。
 とはいえ、2週間におよぶ試験期間中、試験が終わるたびに、「あ~、できなかった」「あ~、かけなかった」「あ~、まちがえた」という思いを重ねる日々は、かなりストレスフルだったので、試験が終わって、今日は正直ほっとしている。
 
 だが、車は急にとまれない。
 頭も心もなかなか試験モードから抜け切れない。
 同級生の社会人男性連中は、夕方から飲みに出かける算段をしていたようだが、大学受験生を抱える母親でもある私としては、自分の期末試験が終わったからといって、ぱあっと飲みに行きましょうというわけにはいかないのだ。
 
 試験後、少しだけ大学院のロビーで友人たちとおしゃべりをしたあと、家に戻り溜まっていた片づけものに手をつけた。
 年末年始、LSの課題提出と、期末試験の準備と、センター試験直前の受験生の世話に追われ、年末大掃除もしていなかった家のなかは、ちょっと片付けを始めただけでたちまち5、6袋のゴミが出る。
 昨春、転居をした際に、大量の不用品を捨てたはずなのに、クローゼットからは、あとからあとから、もう着ない服が出てくる。
 捨てても捨ててもゴミがでる、この不思議なからくりは、一体どういうわけなのだろう。

 もっとも、今日は家に戻ってみたら、先日通販で頼んでおいたパジャマが3着(家族の分も含めてですが)届いていた。
 しかも冬物の分厚い生地なので、やたらとがさばる。
 新しいパジャマが届いたからといって、今までのパジャマを捨てるわけでもなく、ついついカタログが目に入り、注文してしまった新しいパジャマ。
 しかも暖冬のこの冬、こんなモコモコしたパジャマを着たら、暑くて布団から飛び出してしまいそうだ。
 とりあえず、クローゼットにしまっておいて、来年着ることにする。

 あ~、こうして、やっぱり、不用品は増え続けることになるのですね。

 そうやって2時間ほど、片付けに精を出したにも関わらず、頭は依然、試験勉強モードから切り替わらない。
 埃が舞い散った部屋に掃除機をかけながら、「こうやって身体を動かす家事は、気分転換になるわよね」と内心でつぶやいてみたとたん、「日常家事の範囲内」とかいうフレーズが唐突に頭に浮かぶ始末(すみません、業界受けです)。

 試験期間中後回しにしていた雑用を片付けたら、一度頭を空っぽにしたほうがよさそうだ。
 とりあえず、ずっと書けないでいたエッセイを書くことにする。 頭をほぐすために、梅酒のお湯割りをちびちび舐めながら、パソコンに向かっている。

 そして、ぼんやりとフォトファイルに保存してあるモノクロ写真を眺める。
 今夜の気分にふさわしい写真はどれだろう。
 何を書くかも決まらないうちに、一枚の写真に目が留まる。と同時に、黄昏という言葉が頭に浮かび、その言葉がやさしい響きをもって心にじわりと染み入ってくる。

 黄昏、たそがれ、た、そ、が、れ・・・ 

 行き交う人の姿が薄闇に溶け込み、いにしえびとが、誰ぞ彼は、と問うた時刻。
 モニターに浮かぶ、夕闇のグラデーションに、やさしく包まれるような心持を覚えながら、しばし、心を虚空に遊ばせる夜である。



 注)【日常家事の範囲内】
民法761条本文は日常家事に関する取引の安全のため、夫婦相互に日常家事に関する連帯債務責任を規定している。「夫婦と問題文に書いてあったら、761条!」と受験業界で長年言われ続けている、試験頻出論点のひとつ。妻が夫に無断で、夫の土地を売ってしまった場合も、「日常家事の範囲内」と言えるか、といった形で問題になる
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by law_school2006 | 2007-02-10 22:53
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